1994年9月13日、The Notorious B.I.G.はSean “Puffy” Combs率いる新興レーベルBad Boy Recordsから、デビューアルバム『Ready to Die』をリリースした。結果的にこれが彼の生前唯一のアルバムとなる。1997年に凶弾に倒れる彼にとって、本作は自身の物語をすべて凝縮した一枚となった。

名盤たる理由

制作はニューヨークのThe Hit FactoryとD&D Studiosで、1993年12月から1994年6月にかけて2つの時期にまたがって行われた。当初Uptown RecordsでダークなトーンのHip-Hopを録音していたが、Combsの解雇によりプロジェクトは一時停滞。ノースカロライナでドラッグディーリングに手を染めた時期を経て、Combsが立ち上げたBad Boyのもとで再びスタジオに戻り、より自信に満ちた滑らかなヴォーカルトーンで商業性の高い楽曲を録音していく。この二段階の制作過程が、アルバム全体に見られるダークな面とポップな面が同居する独特のコントラストを生み出している。

批評的な評価は極めて高く、Rolling StoneのCheo H. Cokerは「Ice Cubeの『AmeriKKKa’s Most Wanted』以来もっとも強力なソロデビュー作」と評し、AllMusicは五つ星を献呈し「East Coast Hip-Hopをギャングスタ時代向けに再定義した」と絶賛した。商業的には初週わずか5万7000枚のスタートだったが、発売から2カ月でゴールド認定を獲得。2018年までに600万枚を売り上げる6倍プラチナ作品となっている。

文化的な意義としても計り知れない。West Coast全盛期にあった当時のHip-Hopシーンにおいて、East Coast Hip-Hopの復権を印象づけた重要な作品であり、Rolling Stone誌は2020年の「500 Greatest Albums of All Time」でHip-Hopアルバム中1位、総合でも22位にランクイン。2024年には米議会図書館のNational Recording Registryにも選出されている。

▶︎ “Juicy” 貧困から成功へと駆け上がる自伝的なストーリーを描いたこの曲は、Hip-Hop史上もっとも愛されるサクセスストーリーソングの一つ。Mtume”Juicy Fruit”のサンプリングとThe Notorious B.I.G.の温かみのあるフロウが印象的な代表曲だ。

▶︎ “Big Poppa” The Isley Brothersの”Between the Sheets”をサンプリングした、ムーディーで色気のあるトラックが特徴の一曲。Grammy賞にもノミネートされ、The Notorious B.I.G.の主流での人気を決定づけたシングルとなっている。