Bellが、最新アルバム『Q』をリリースした。
大阪府出身、現在は東京をメインに活動するHIPHOPアーティストのBell。2013年、映像クリエイターのRyo Takahashiとの出会いをきっかけにDJやデザイナー、カメラマンなどが所属するクリエイティブ集団・Bishop Arcadeを結成し、2022年11月には楽曲「don’t care feat. 唾奇」が話題を呼んだ。
3年ぶり2枚目のアルバムとなる本作でBellは、全曲をプロデュースしたBigoとともに、日本におけるHIPHOPのあり方に疑問を投げかける。サブスクリプション型の音楽配信サービスが普及してから約10年、リスナーの音楽に対する向き合い方が大きく変化してきた。聴きたい曲を好きな順番で、気軽に楽しむプレイリストという存在により、音楽はそんな風に消費されるようになった。さまざまなジャンルのなかでも特にHIPHOPは、テクノロジーの進化や社会の変化にいち早く反応し、影響を受ける。その結果、リスナーの求める「気軽さ」に迎合し、芸術性を軽視した楽曲が溢れる状況になってしまった。
今作では、単曲だけでなくアルバムとしての完成度を追求し、BellとプロデューサーのBigoが、46分間の物語を作り上げた。アルバムの中でBellは、思考や言動が表面的なラッパーに対して警鐘を鳴らしつつ、「善と悪」「愛と憎しみ」といった、光と影のように真逆だが共存する人間の複雑な感情を吐露する。また、プロデューサーBigoのサウンドプロダクションは、時代性にとらわれないジャンルレスで実験的なアプローチながらも、どこか普遍的な安定感を感じられる仕上がりに。全15曲が有機的につながりあうよう緻密に構成され、先行シングルの「アンチ・コントロール」「One Time」も、アルバム仕様にアップデートされている。
ジャケットのデザインでは、水銀がモチーフに選ばれた。金属のなかで唯一、常温時に液体であり、かつては治療薬としても使用されていた、その美しくも不気味にも見える独特な性質や、人類を翻弄してきた「毒か、薬か」という危うい二面性が、今作の世界観に一致している。