本名Daniel DumileことMF DOOMは1971年7月13日、イギリス・ロンドンのハウンズローに生まれた。まもなく家族とともにアメリカへ渡り、ニューヨーク州ロングアイランドのロングビーチで育つ。1988年、弟のDJ Subrocと共にグループKMDを結成し「Zev Love X」を名乗って活動を始めた。しかし1993年4月23日、Subrocがロングアイランド高速道路を横断中に交通事故で19歳の若さで亡くなり、さらに問題視されたジャケットアートを理由にElektra RecordsがKMDとの契約を打ち切るという苦難に見舞われる。Dumileは数年間シーンから姿を消した後、1990年代後半、金属製のマスクを被った覆面ヴィラン「MF DOOM」として再起を果たした。

Marvelコミックの悪役Doctor Doomをモチーフにした金属マスクの覆面ヴィランというペルソナは、後年には映画『Gladiator』(2000年)の小道具を用いたものへと変化しながらも、公の場でほぼ素顔を見せないという徹底したスタイルを貫いた。1999年のソロデビュー作『Operation: Doomsday』でDOOMという人格を確立し、2004年にはMadlibとのユニットMadvillainとして『Madvillainy』を発表。この作品は今なおアンダーグラウンドHip-Hopの金字塔として高く評価されている。同じく2004年の『MM..FOOD』も高い評価を受けた。Viktor Vaughn、King Geedorah、プロデューサー名義のMetal Fingersなど、数多くの別名義でも作品を発表し続けたその多作ぶりも特筆すべき点だ。

密度の高い韻の踏み方と言葉遊びは、後続のアンダーグラウンド/オルタナティブHip-Hopのアーティストたちに計り知れない影響を与え、熱狂的なカルトファンダムを築き上げた。ライブに影武者を送り込むという物議を醸す手法を取ったこともあったが、これも「ヴィラン」というコンセプトの延長線上にあるものとして、彼独自の表現として受け止められている。

2020年10月31日、MF DOOMは移住先のイギリス・リーズの自宅で亡くなった。同年10月21日に呼吸困難のため入院しており、10月31日に生命維持装置が外されたとされる。死去の事実が公表されたのは2カ月後の同年12月31日、妻Jasmine Dumileによる声明を通じてのことだった。当初死因は明らかにされていなかったが、2023年7月になって妻が公表したところによると、死因は血圧治療薬(ACE阻害薬)への稀な副反応として起きた血管浮腫(喉や舌の重度の腫れ)であり、腎臓疾患や高血圧もその一因となっていたという。

2026年で没後6年。素顔を明かさぬまま音楽そのもので語り続けた稀代のヴィランは、今もアンダーグラウンドシーンの象徴であり続けている。

代表作 Music Video

▶︎ “Doomsday”(feat. Pebbles the Invisible Girl) 1999年の『Operation: Doomsday』に収録されたタイトル曲。弟の死とKMDの崩壊を経て「ヴィラン」として生まれ変わった自身の物語を綴った、DOOMという人格の原点を示す一曲だ。

▶︎ “All Caps”(Madvillain) 2004年の『Madvillainy』からのシングルで、コミックブック風のアニメーションが用いられたミュージックビデオが特徴的な一曲。「ALL CAPS when you spell the man name」というフレーズは彼の代名詞的な一節として広く引用され続けている。