「業界なんて大嫌いだ。お前らの承認なんていらない」——度重なる炎上と称賛のはざまで、R&Bのスーパースターがついに“悪役”を引き受けると宣言した。

Chris Brownは、もう音楽業界からの承認を求めるつもりはないらしい。自ら“ヴィラン(悪役)”を受け入れる覚悟を決めたようだ。

現地時間9月22日(火)、R&Bのスーパースターである彼はInstagramのストーリーズに長文メッセージを投稿。もはや属していたいとも思わない業界に、愛想よく振る舞う気などさらさらないことをはっきりと示した。

“I’m not your friend, I’m not your buddy. I don’t like majority of you. I don’t want your approval. I hate the music industry. I don’t wanna participate in this circus.”

「俺はお前らの友達でも仲間でもない。お前らの大半のことは好きじゃない。お前らの承認なんていらない。音楽業界なんて大嫌いだ。こんなサーカスに参加したくない」

さらに彼は「謙虚さなんてクソくらえ!俺こそが文句なしのベストだ。俺がキングだ」と言い放ち、最後は「お前らの意見なんてどうでもいい。俺はヴィランになってやる」と締めくくった。

付きまとう過去

“Breezy”ことChris Brownの苛立ちには、長い経緯がある。2009年、当時交際していたRihannaへの暴行事件で重罪の有罪判決を受けて以来、その過去はキャリアを通じて彼に付きまとってきた。その後も法的トラブルや数々の疑惑が浮上するたびに、批判は絶えることがなかった。今年に入ってからは、2023年にロンドンのナイトクラブで男性に暴行した件について有罪を認めており、彼をめぐる厳しい視線に新たな大事件がひとつ加わった形だ。

2009年のRihanna暴行事件とは

2009年2月、Grammy賞授賞式の前夜にChris Brownが当時の恋人Rihannaに暴行を加えた事件。Chris Brownは重罪の暴行罪で有罪を認め、保護観察処分と家庭内暴力のカウンセリング受講などを命じられた。アメリカでは今もDV(ドメスティック・バイオレンス)問題を語る際に必ずといっていいほど引き合いに出される事件で、ヒット曲を出し続ける彼の“才能”と“過去”をどう切り分けるべきかという議論は、15年以上たった現在も決着していない。

“Breezy”はChris Brownの愛称。本人のブランド名やアルバムタイトルにも使われている。

業界の“内側”にいながら

その一方で、Chris Brownは今も音楽業界のど真ん中にいる。Grammy賞には通算26回ノミネートされ、2度受賞。昨年も11:11 (Deluxe)で最優秀R&Bアルバム賞を手にしたばかりだ。

とはいえ、アワードショーとの関係はずっと複雑だった。2022年には、American Music Awards(AMA)で予定されていたMichael Jacksonトリビュートのパフォーマンスが本番直前に中止に。本人いわく「理由は不明」とのことだった。その夜、彼は欠席していたにもかかわらずFavorite Male R&B Artistを受賞したが、受賞が発表されると会場からはブーイングが起こり、プレゼンターのKelly Rowlandが彼を擁護する一幕もあった。

GrammyとAmerican Music Awardsの違い

Grammy賞はレコーディング・アカデミー会員(アーティストや制作者など業界関係者)の投票で決まる、いわば“業界からの評価”。一方American Music Awardsはファン投票が軸となる賞で、人気の指標としての色合いが強い。つまり彼は、ファンからも業界からも一定の評価を受けながら、同時に激しい批判にもさらされ続けてきたことになる。

Kelly RowlandはDestiny’s Childの元メンバー。ブーイングする観客に向かって「静かに」とたしなめ、代理で受賞を発表したことは当時大きな話題となった。

議会からの表彰と、その撤回騒動

最新の騒動はつい数週間前のことだ。9月12日、連邦下院議員のJasmine Crockettとテキサス州議会議員のVenton Jonesが、Chris BrownとUsherが出演したアーリントン公演の場で2人を表彰。「連邦議会議事録(Congressional Record)」への掲載による顕彰と、テキサス州議会の決議を贈った。Crockettはこの機会を、“Black joy(黒人の喜び)”を議会の記録に刻むチャンスだと語っていた。

Congressional Recordによる表彰とは

Congressional Recordはアメリカ連邦議会の公式議事録。議員は本会議での発言や挿入文書(Extension of Remarks)を通じて、特定の人物や団体の功績をたたえる文言を議事録に残すことができる。法的効力はないものの、公的な記録として永久に残る名誉的な顕彰だ。州議会の「決議(resolution)」も同様に、個人を称える目的でよく用いられる。

Black joyは、差別や苦難ばかりが語られがちな黒人の経験に対し、喜びや祝福、文化的な豊かさを肯定的に可視化しようという近年の言葉。アーリントンはテキサス州ダラス近郊の都市で、大規模スタジアムを擁するライブの一大開催地でもある。

しかし、彼の過去を理由に、この表彰はたちまち反発を招いた。

Chris Brownは当初、Crockettに感謝を述べたうえで、彼女が受けている批判について「俺を表彰したことで、あなたがバッシングを受けることになってしまって申し訳ない」と謝罪していた。

ところがほどなくして、Jonesが方針を撤回。自身の選挙区の有権者、黒人女性、そしてDVや性暴力のサバイバーたちに向けて謝罪し、自らの判断が彼らの経験を置き去りにする状況を「助長してしまった」と述べた。これに対しChris Brownは「賞なんて取っておけよ」と応酬。有権者の票を失うのを恐れて表彰から手を引いたのだと、Jonesを非難した。

  • 2009Rihannaへの暴行事件で重罪の有罪判決
  • 2022AMAでのMichael Jacksonトリビュートが直前に中止。欠席のまま受賞し、会場からブーイング
  • 202511:11 (Deluxe)でGrammy最優秀R&Bアルバム賞を受賞
  • 20262023年のロンドンのナイトクラブでの暴行について有罪を認める
  • 2026.09.12アーリントン公演でCrockett議員とJones州議員から表彰。のちにJonesが撤回・謝罪
  • 2026.09.22Instagramで「音楽業界が大嫌いだ」「ヴィランになる」と宣言

“悪役”宣言が意味するもの

こうした流れを踏まえると、もはや業界の承認は求めないという今回の宣言は、キャリアの大半を通じてこじれ続けてきた業界との関係における、さらなるエスカレーションとして読み取れるだろう。

Hip-Hop/R&Bにおける“ヴィラン”という自己演出

アメリカのHip-HopやR&Bでは、世間から嫌われる立場を逆手に取り、「悪役」を自称することで反骨精神や自立を打ち出すスタイルが珍しくない。ただしChris Brownの場合、その“悪役”像は実際の暴力事件と切り離せないため、単なるキャラクター演出として受け取られにくい点が、他のアーティストとは大きく異なる。