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2001年9月11日、Jay-Zは自身6作目のスタジオアルバム『The Blueprint』をRoc-A-Fella RecordsとDef Jam Recordingsからリリースした。当時すでにHip-Hopシーンの頂点に君臨していたJay-Zだが、本作はブートレグ流出対策として発売日を1週間前倒しにするという異例の経緯でリリースされた。そしてその発売日は、奇しくもアメリカ同時多発テロ事件が発生した日と重なり、Hip-Hop史上もっとも数奇な運命をたどったアルバムの一つとして記憶されることになる。

『The Blueprint』の制作はわずか2週間、しかもJay-Zは2日間で9曲を録音したと言われるほどのスピード感で進められた。プロダクションの中心を担ったのは、当時まだ無名に近かったKanye Westと、Just Blaze、Binkの3人。ソウルミュージックのサンプルを大胆に加工したその音作りは、それまでシーンを支配していたTimbaland的なシンセサウンドの潮流を一変させ、以降のHip-Hopプロダクションの方向性そのものを変えたと評価されている。

批評的な評価も非常に高く、The Sourceは殿堂入りクラシックにのみ与えられる5マイク評価を本作に授与。批評家からは「Jay-Zのキャリアにおける決定的な瞬間」「デビュー作『Reasonable Doubt』以来もっとも一貫性のある作品」と絶賛された。商業的にも初週427,000枚超を売り上げてBillboard 200初登場1位を獲得し、最終的には300万枚近くを売り上げるマルチプラチナ作品となっている。

文化的インパクトという点でも本作は特別だ。収録曲”Takeover”では、NasとMobb DeepのProdigyへの痛烈なディスが繰り広げられ、これに対するNasの返答曲”Ether”とあわせて、Hip-Hop史に残る伝説的なビーフへと発展した。2018年には米議会図書館のNational Recording Registryに選出され、これは21世紀にリリースされた作品として初めての快挙だった。Rolling Stone誌の「オールタイム・アルバムランキング」でも、2003年の464位から2020年には50位まで評価を大きく上げており、時代を経るごとにその価値が再評価され続けている稀有な作品と言える。

▶︎ “Izzo (H.O.V.A.)”アルバムのリードシングルで、Kanye WestがThe Jackson 5の”I Want You Back”を大胆にサンプリングしたトラックが印象的な一曲。Hip-Hopファン以外にも広く浸透したクロスオーバーヒットとなり、Jay-Zの主流での地位を決定づけた楽曲でもある。

▶︎ “Song Cry”自らの過去の恋愛関係における後悔と葛藤を、感情を抑えたクールな語り口で綴った内省的な楽曲。派手さはないものの、Jay-Zの人間味あふれるストーリーテリング能力を証明する曲としてファンから根強い支持を集めている。

2007年9月11日、Kanye Westは自身3作目のスタジオアルバム『Graduation』を、そして50 Centは自身3作目のスタジオアルバム『Curtis』を、それぞれ同日にリリースした。もともと発売日が離れていた両作だったが、Kanye Westが2007年7月に自身のリリース日を50 Centの発売日に合わせて動かしたことで、Hip-Hop史に残る歴史的なセールス対決へと発展していく。当初50 Centは「Graduationに売上で負けたらソロ活動から引退する」と発言し、この対決はメディアを巻き込む一大イベントとなった。

『Graduation』はプロダクション面で高く評価され、Daft Punkをサンプリングした”Stronger”が全米チャート1位を獲得。批評家からは絶賛され、Rolling Stone誌やUSA Todayの年間ベストアルバムにも選出された。後年にはRolling Stone誌やNME誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム」にもランクインしている。対する『Curtis』は評価が分かれ、Metacriticのスコアは58点にとどまったものの、シングル”I Get Money”はTime誌の「2007年ベストソング」6位に選ばれるなど、部分的には高い評価を受けた。

セールス対決の結果は、Kanye Westの『Graduation』が初週95万7000枚、50 Centの『Curtis』が初週69万1000枚と、Graduationの圧勝に終わった。これはNielsen SoundScan史上、2作品が同時に62万3000枚を超えて初登場した2例目という記録的な出来事でもあった。この結果を受けて50 Centは実際には引退宣言を撤回している。

このセールス対決がHip-Hop史において特に重要なのは、それがギャングスタラップ全盛の時代の終わりと、新たな表現のスタイルの台頭を印象づける象徴的な出来事となった点だ。『Graduation』の勝利は、ストリートのイメージに頼らないアーティストたちが主流での成功を収める道を切り拓いたと評価されている。『Graduation』は最終的に700万枚以上を売り上げる7倍プラチナ認定を獲得し、Kanye Westに3度目のグラミー賞Best Rap Albumをもたらした。

2026年で、この歴史的なセールス対決から19周年を迎える。

代表作 Music Video

▶︎ Kanye West “Stronger”Daft Punkの”Harder, Better, Faster, Stronger”を大胆にサンプリングしたこの曲は、Kanye Westに3度目のBillboard Hot 100 1位をもたらした代表曲。フューチャリスティックなミュージックビデオも高く評価され、『Graduation』を象徴する一曲となっている。

▶︎ 50 Cent “I Get Money”『Curtis』からのシングルで、自信に満ちたブラギングリリックとキャッチーなフックが特徴的な一曲。Time誌の年間ベストソングにも選出されるなど、対決の評価が分かれる中でも高く評価された楽曲だ。

本名Malcolm James McCormick、通称Mac Millerは1992年1月19日、ペンシルベニア州ピッツバーグのポイントブリーズ地区に生まれた。10代からミックステープを自主リリースし、2011年のデビューアルバム『Blue Slide Park』ではBillboard 200初登場1位を獲得。当初は陽気でパーティー志向のイメージで人気を博したが、キャリアを重ねるごとに音楽的な深みと内省性を増し、Hip-Hopの枠を超えたアーティストへと成長していった。

Mac Millerの真価が広く認識されるようになったのは、2010年代半ば以降だ。『Faces』『GO:OD AM』『The Divine Feminine』、そして2018年の『Swimming』では、ジャズやソウルの要素を取り入れた繊細なプロダクションと、うつや薬物依存、恋愛関係の破局といった痛みを率直に綴るリリックで、多くのリスナーの共感を集めた。特に『Swimming』は批評家から絶賛され、彼の死後にグラミー賞Best Rap Albumにノミネートされている。

プロデューサーとしての才能も特筆すべき点だ。Larry Fisherman名義で自身の作品はもちろん、Vince StaplesやAriana Grande(元パートナー)の楽曲にも携わり、多才なミュージシャンとして高く評価されていた。飾らない人柄とファンとの距離の近さも彼の魅力であり、その突然の死は音楽シーンに大きな衝撃を与えた。

2018年9月7日、Mac Millerはカリフォルニア州ロサンゼルス、スタジオシティの自宅で意識不明の状態で発見され、その日のうちに死亡が確認された。享年26。ロサンゼルス郡検死局は死因を「事故死」とし、フェンタニル、コカイン、アルコールが複合的に作用した薬物中毒(“mixed drug toxicity”)によるものと発表した。

その後の捜査で、彼にフェンタニル入りの偽オキシコドン錠を売った売人を含む3人の男(Cameron James Pettit、Ryan Michael Reavis、Stephen Andrew Walter)が薬物流通に関する連邦の罪で起訴され、それぞれ有罪判決を受けている。Mac Millerの死は、フェンタニルが引き起こす薬物危機の深刻さを社会に広く知らしめる出来事ともなった。

死後にリリースされた遺作『Circles』(2020年)は、生前の彼が構想していた『Swimming』との対の作品であり、そのタイトル通り「巡る」人生と死を静かに見つめる内容として、多くのファンに惜しまれながら受け入れられた。

2026年で没後8年。Mac Millerが遺した音楽は、今も多くのリスナーの心の支えであり続けている。

▶︎ “Self Care”『Swimming』からのこの曲は、自身との向き合い方や心の平穏をテーマにした一曲。ミュージックビデオでは棺桶から蘇るという象徴的な演出が話題となり、公開当時から「死と再生」のメタファーとして解釈され、彼の死後は特に多くのファンの間で語り継がれる作品となった。

▶︎ “Good News”死後初のシングルとして2020年にリリースされた楽曲で、遺作『Circles』の先行曲。穏やかなギターサウンドに乗せて「もう十分頑張った」と歌うリリックは、多くのリスナーの涙を誘い、彼の死を悼むと同時にその音楽的遺産を象徴する一曲として広く愛されている。

Hip-Hop史に残る大物同士のBeef(確執)も、時が経てば和解に至ることは珍しくない。Jay-ZとNas、そして近年ではDrakeとKendrick Lamarも、長年の因縁の末に歩み寄りを見せてきた。そのリストに新たに名を連ねたのが、LupeFiascoとKid Cudiだ。

2人はKanye Westがシカゴで行った2度目の「Homecoming」公演のバックステージで顔を合わせ、写真を撮り、言葉を交わした。KanyeにとってシカゴはHip-Hopキャリアの出発点にあたる地元であり、こうした地元凱旋公演は毎回、往年の顔ぶれが集まる同窓会的な場になりやすい。

2人の確執の始まりは、意外にもシンプルな出来事だった。2014年、LupeFiascoはファン向けに1本500ドルでオーダーメイドのバース(パーソナライズされたラップの一節)を販売するサービスを始めた。今でいうCameoの有料メッセージ動画のラップ版のような仕組みだ。

これに対しKid Cudiは、ファンからお金を取ってバースを売ることはファンの足元を見た行為だとして疑問を呈した。LupeFiascoはこの件について直接話し合おうとしたが、Cudiはその都度会話を避け続けたという。この「無視された」という感覚が積み重なり、数年におよぶ確執へと発展。LupeFiascoが一時は実力行使をちらつかせる場面もあったとされるが、Hip-Hopの対立といえば定番の「ディストラック」の応酬には至らなかった。

関係修復のきっかけを作ったのはCudiだった。2024年、彼は自らの非を公に認め、次のように語っている。

「自分が間違っていたのはわかってる。あんなクソみたいなことをするべきじゃなかったと、彼にも伝えたんだ」

Cudiは、当時LupeFiascoを批判した本当の理由はファンを思ってのことではなく、自身の嫉妬心にあったと振り返っている。また、2人の間を取り持った共通の知人「IBN」の存在にも触れ、Black community、とりわけ同じ業界で活動するBlackの男性同士が無用な対立を続けるべきではないという思いを口にしたという。

今回のシカゴでの再会は、その和解が実を結んだ瞬間と言えそうだ。ディストラックも公式な和解宣言もないまま燻り続けていたBeefが、1枚の写真によって静かに幕を閉じた。

2005年8月30日、イリノイ州シカゴ出身のKanye Westがセカンドアルバム『Late Registration』をRoc-A-Fella/Def Jamからリリースした。前作『The College Dropout』(2004年)でプロデューサーからラッパーへの転身を果たしたKanyeが、次なる高みを目指して制作した本作は、フィルムスコアの作曲家Jon Brionとの共同プロデュースという異色の布陣によって生み出されたスケールの大きな傑作だ。1977年6月8日生まれのKanyeにとってのセカンドアルバムであり、彼の音楽的野心が初めて完全に花開いた作品といえる。

名盤たる理由

『Late Registration』は2005年のグラミー賞で「Album of the Year」を含む3部門を受賞し、全米ビルボード200で初登場1位を獲得した。商業的な成功のみならず、批評家からも「世代を代表する傑作」と賞賛を受けた本作は、Hip-Hopの可能性を根底から拡張した作品だ。

Jon Brionとのコラボレーションによって生まれたオーケストラルなアレンジは、それまでのHip-Hopの文法では考えられないほどの映画的スケールをもたらした。「Diamonds from Sierra Leone」では西アフリカのダイヤモンド採掘における児童労働問題を告発し、「Gone」ではOtis Reddingのサンプルを大胆に再解釈。「Gold Digger」はRay Charlesの「I Got a Woman」を下敷きにしたサンプリングでジェイミー・フォックスをフィーチャーし、10週連続で全米シングルチャート1位を記録した。ローリング・ストーン誌の「500 Greatest Albums of All Time」でも高く評価されている本作は、Kanyeが単なる「ビートメーカーがラップをやっている」存在ではなく、ポップカルチャー全体を俯瞰する才能であることを証明した。

2026年8月30日でリリースから21周年を迎える。

▶︎ Kanye West – “Gold Digger” ft. Jamie Foxx(2005)

Hype Williams監督によるMV。Ray Charlesの楽曲を下敷きにしたキャッチーなフックとジェイミー・フォックスの熱唱が融合したこの曲は、全米シングルチャートで10週1位を達成した。ピンナップ誌風のビジュアルが批評的論争を呼んだが、商業的には前年のヒット「Jesus Walks」を超えるKanyeの最大のヒット曲となった。

▶︎ Kanye West – “Diamonds from Sierra Leone”(2005)

シエラレオネの紛争ダイヤモンドをテーマにした社会派シングル。シャイニーなシンセとフルオーケストラが合わさったドラマティックなビートの上に、消費社会と紛争の連鎖を問う重いメッセージが乗る。Kanyeがエンターテイメントと社会批評の両立を目指したことが如実に表れた一曲で、本作の深みを象徴するトラックだ。